チェスが人生の全てではない、ということ チェス界の「アマ強豪」と「セミプロ」たち

  チェス界にはプロ資格やプロ制度がありません。

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棋力に対して与えられる「グランドマスター」や「インターナショナル・マスター」の称号を持っていても、チェスを生業としないプレーヤーは少なくありません。そんなチェス界の著名な「アマ強豪」たちを紹介していきます。

 

1.サラリーマン

1-1.GM Jan Smeets

  オランダのグランドマスターJan Smeetsは2008年のオランダ選手権優勝者。生涯最高レートは2600台後半です。そんなSmeetsは、現在アムステルダム証券取引所に勤務しています。本人曰く、「7時に起きて、8時に職場へ向かい、7時に帰ってくる生活」だそうです。

www.youtube.com  普通にサラリーマンをやっているSmeetsが「チェスのグランドマスター」として戦う場はドイツで開催されているクラブ対抗戦、ブンデスリーガです。ブンデスリーガは長期開催のリーグ戦。Smeetsは強豪クラブSG Solingenのメンバーに登録されており、エントリーしたラウンドにだけ参加します。仕事とも両立しやすい競技生活です。

1-2.GM Tomi Nybäck

   フィンランド第一位のGMTomi Nybäckプログラマーです。2018年はゲーム会社でプログラマーをしながら、フィンランド代表としてチェス・オリンピアードを戦いました。

  NybäckもSmeetsと同様ブンデスリーガのチームに登録して競技生活を続けています。Nybäckの所属クラブはSV Werder Bremenです。

  NybäckのLinkedinのプロフィールページはこんな感じです。

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  会社の名前と、ブンデスリーガの所属クラブ名が並んでいます。 

2.学者

2-1.GM Jan Michael Sprenger

  ドイツのGMJan Michael Sprengerのプレーヤーカードを見てみましょう。

「Dr.」がついていますね。GM Sprengerは博士号を取得しており、現在はトリノ大学の論理・言語・認知センターに所属する研究者です。彼の個人サイトがこちら。

Jan Sprenger -- Home

チェスへのささやかな言及もあります。

I am still a quite reasonable chess player and sometimes play (duplicate) bridge.

 2500近いレーティングとGMの称号を持ちながら「a quite reasonable」というのは控えめな表現ですね。

GM Sprengerもブンデスリーガに参戦しており、Schafreunde Berlin 1903の主力選手として戦っています。

 

2-2.他の学者GM

  現在もスコットランド第一位のプレーヤーであり続けているGM Jonathan Rowson、長くオーストラリア代表を務めたGM David Smerdonあたりが有名でしょうかね。

  ドイツのプレーヤーは登録名に「Dr.」や「Prof.」をつけているプレーヤーが多く、学者マスターを捕捉しやすくなっています。ブンデスリーガの参加者リストから学者を探すのも面白いかもしれません。

 

3.弁護士

  GMノーム二つを持つ*1アイルランド第一位のプレーヤー、IM Sam Collinsの本業は法廷弁護士(Barrister)です。法律家として登録されています。

www.lawlibrary.ie  Collinsは法律家にしてチェス競技者なのですが、同時にチェスの教本やレッスンビデオも作っています。

www.youtube.com  どうやって時間を作っているんでしょうね……。

 

4.政治家

  GM Viktorija Čmilytė-Nielsenリトアニアの女性プレーヤー。女性では数少ない、男性と同様の水準を満たしてGMになったプレーヤーです。リトアニア選手権では男性のグランドマスターを従えて優勝した経験も持ちます。

  現在のレーティングは2542、女子の世界ランクでトップ10相当です。

  そんなČmilytėのもう一つの顔は、リトアニア議会の議員として活動する政治家です。リトアニア議会公式サイトには議員としての彼女のプロフィールが掲載されています。

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  流石に議員としての活動とチェスプレーヤーとして競技生活を並行で進めるのは難しいらしく、2018年は公式戦出場がありませんでしたが、今年3月女子ブンデスリーガで久々のFIDE公式戦を戦いました。4月に発表されるレーティングリストで、avtiveプレーヤーとして世界ランクに復帰するでしょう。

追記:「あなたはプロですか?」という問い

  ドイツのGM Georg Meierがインタビューを受ける映像です。GM Meierは2600を超えるレーティングを持ち、世界王者Carlsenや元世界王者Anandらと共にドイツで開催された招待制の賞金大会に出場していました。

www.youtube.com1分40秒頃、インタビューアが「あなたはまだプロ選手なんでしょうか、それともセミプロのような?」と質問します。日本の囲碁・将棋の世界では、インタビューアが棋士に「あなたはプロですか?」と質問をすることはまずあり得ません。

  Meierの答えは、現在は銀行に勤務して「普通の仕事」をもっているから、チェスに割く時間は自分をプロだと考えるプレーヤーとは比較にならない(ほど少ない)というものでした。 

 

  囲碁や将棋の世界では、プロとアマチュアの間にははっきりした一線が引かれます。白黒切り分ける世界です。

  しかし、チェスの世界では、プロとアマの間はグラデーションでつながっていて、境界ははっきりしません。競技に対する向き合い方は個人の自由なのです。  

*1:一定以上の高水準の大会で所定の成績を収めると、チェスのグランドマスターになるために必要な「GMノーム」の取得できる。正式なGM称号の獲得には、「GMノーム」3つの獲得が必要。