チェスの神童 その2 天才児たちはどうやってステップアップするのか

  日本の囲碁、将棋の天才児たちは、在野のアマチュアから「奨励会員」や「院生」と呼ばれるプロ養成課程を経て、「プロ棋士」となって最高峰の舞台である「プロ棋戦」にデビューします。

  ではチェスの天才児たちは、どうやって階段を上っていくのでしょうか。

1.「プロ養成課程」はない

  チェスにはプロ制度がありません。

dame-chess.hatenablog.com  チェスには「プロ棋戦」「アマ棋戦」という枠組みがありません。すべてのプレーヤーは、あくまで在野の一プレーヤーにすぎません。したがって、「奨励会員」や「院生」のような、一般の大会から切り離された育成過程もありません。

  チェスの才能にめぐまれた子供たちは、棋力も年齢も様々なプレーヤーに混じって大会に出場し、次に述べる「レーティング」を上げていきます。

 

2.レーティング

2-1.全プレーヤー共通のものさし

  チェスの世界には国際チェス連盟(FIDE)や各国のチェス連盟が発表しているレーティングがあります。チェスプレーヤーの格付けは、基本的にこの「レーティング」によって行われます。

  プロもアマも、マスターもそうでないプレーヤーも、大人も子供も、すべてのプレーヤーはこの共通の基準で棋力を測られます。天才児たちも同様です。

2-2.FIDEレーティングと年齢別世界ランク

  FIDEの発表するレーティングは全世界共通です。FIDEは、FIDEに登録されたプレーヤーの年齢とレーティングを把握しており、毎月レーティングを発表しています。年齢、名前、チェス国籍、レーティングは公開情報なので、これらの情報から年代別の世界ランクを作成できます。

  チェスの天才児たちは、同年代の全世界のプレーヤーの中で自分がどの程度の位置にいるのか常に数字で示されるのです。

2-3.称号

  レーティングと大会成績に応じて「グランドマスター(GM)」などの称号が与えられます。チェスで生きていくには、この称号も大事です。

 

 3.神童たちの戦場

  格付けを上げるにはレーティングを上げていく必要があります。レーティングを上げるには、レーティング対象の大会出て勝つしかありません。

チェス大会の仕組、種別については以下のエントリをご覧ください。

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3-1.スイス式オープン

  育成年代のプレーヤーにとっても、この形式の大会が最もポピュラーであり、主戦場となります。レベルは大会によって様々ですが、世界トップレベルのGMが多数エントリーする大規模大会に参加すれば、組み合わせの具合次第でそういった世界レベルのGMと戦う機会も得られます。

  時には10代前半のプレーヤーが一流のGMを倒してしまったりもします。昨年のGRENKE Openでは13歳のIM Vincent Keymerがハンガリーを代表するGM Richard Rapportに勝って優勝を決め、世界を驚かせました。

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3-2.クローズドのノーム大会

  「インターナショナル・マスター」、「グランドマスター」の称号を得るには、一定レベル以上の大会にエントリーして好成績を収め、「ノーム(Norm)」を取得する必要があります。「ノーム」取得を目指すプレーヤーのために、FIDEのルールで定められた基準をクリアした高レベルのクローズド大会が開かれており、これらの大会を「ノーム大会(Norm Tournament)」と呼びます。

  称号の取得を目指す若手プレーヤーは、ノーム大会にもよく顔を出します。昨年、ウズベキスタンのSindarovが最後の「GMノーム」獲得を決めたのもハンガリーで開かれた「ノーム大会」でした。

3-3.年代別大会

  チェスの世界では毎年、21歳未満の全選手を対象とした「世界ジュニア」、8歳以下、10歳以下、12歳以下の3クラスに分かれた「世界カデット」と14歳以下、16歳以下、18歳以下の3クラスに分かれた「世界ユース」が開催されています。

  この他にも、「ヨーロッパ」や「アジア」といった大陸レベル、あるいは国内レベルでも年代別の大会が開かれます。

  年代別大会では長きにわたってライバルになるであろう、同世代のプレーヤーが集い、戦います。現在世界のトッププレーヤーとなっているGMたちが、若い頃世界ユースで戦った棋譜を眺めるのも楽しいものです。

  近年では、一般の大会で戦うようになったプレーヤーが年代別大会から卒業していく傾向にあり、「世界ジュニア」や「U18」年代まで上がってくると、必ずしも「世代最強」が集まる大会とは言えなくなっています。

3-4.招待制大会

  「天才児」たちは、人気のあるプレーヤーでもあります。チェスイベントの主催者にとっても、彼らはイベントの目玉の一つになりうるコンテンツなのです。

  2018年に初開催された早指し戦、Tata Steel Chess Indiaではインド出身の若いGMであるPraggnanandhaaとNihal Sarinが招待され、世界トップレベルのプレーヤーと真剣勝負を繰り広げました。

www.youtube.com  13歳のPraggnanandhaaが、元世界王者にして現役のトップ10プレーヤー、Anandと戦っています。

 

4.辿り着く場所

  称号を取得し、レーティングを上げ続けた先にあるのがオランダで開催されるTata Steel Chessやアメリカで開催されるSinquefield Cupなど「スーパートーナメント」*1と総称される、世界最高のプレーヤーたちが招待される高額賞金大会です。

  レーティングを上げ続ければ、「スーパートーナメント」の主催者から招待状が届くようになります。

  「スーパートーナメント」の常連になるのが、一応はチェスプレーヤーとしての到達点といっても良いでしょう。

 

  この上にもう一つ「世界王者」というチェス界最高峰のタイトルがあるのですが、世界王者へ至る道はまた別の機会にでも。

*1:非公式な呼称で、定義はあいまい