チェスの神童 その1 チェスの「最年少プロ棋士」

  先日、囲碁の日本棋院は、9歳の仲邑菫さんが4月からプロ棋士デビューする旨の発表を行いました。通常のルートではなく、新設される「英才特別推薦棋士」としての採用で、4月から10歳のプロ棋士として戦うことになります。

www.jiji.com

  さて、チェスの神童たちも若くして頭角を現して来るものです。チェスの世界の天才児事情を語ってみたく思います。

 

1.チェスの「最年少プロ棋士」は何歳?

  日本囲碁界の最年少プロ棋士が10歳、ではチェスは……と書ければよかったのですが、残念ながらそれはできない相談です。そもそもチェスにはプロ制度がないのです。

dame-chess.hatenablog.com  「チェスで稼いでいる人がプロ」ぐらいの、ざっくりとした区分しかないんですよね。

  この映像では、ロシアのFIDEマスター(FM)Ilya Makoveevが多面指しのデモンストレーションを行っていますが、これで報酬を受け取っている場合、彼もすでに「プロ」であるということが言えるかもしれません。

www.youtube.com  また、コーチをつけ、各地の大会を転戦していくとなるとどうしてもお金が掛かります。費用を賄うため、チェスの若手有望株は個人スポンサーの支援を受けます。アルメニア出身のトップGM、Levon Aronianはインタビューに答えてこんなことを言っています。

It might sound strange, but my professional career started at the age of 10, when, with my mother's continuous efforts of knocking on every high ranked official's door, I got my first sponsorship deal.*1

自分のプロとしてのキャリアは最初にスポンサー契約を結んだ10歳の時に始まったと語っています。

  昨年12歳でGMとなったGM Praggnanandhaaにもスポンサーがついています。

www.youtube.com  彼の上着についている「RAMCO」は企業グループの名前なのです。

www.ramcocements.in*2

 

  スポンサーの看板を背負ってチェスをするようになった時が、プロ生活の始まりという見方もできそうです。

 

2.称号と最年少記録

2-1.称号の最年少記録

  先述したようにチェスにはプロ制度がありませんが、棋力のものさしとなる「レーティング」を上げ、大会で好成績を収めて「ノーム」を獲得すれば、「インターナショナル・マスター(IM)」や「グランドマスターGM)」といった「称号」が手に入ります。

  「プロ棋士」の地位をチェスの称号と同様の「競技上の達成に対して贈られる名誉」「棋力の証明」として捉え、チェス称号の年少記録を見ていきたいと思います。

   現在、GMの最年少記録はロシアのSergey Krjakinが持つ12歳7ヶ月IMの最年少記録はインドのPraggnanandhaaが持つ10歳10ヶ月19日となっています。

2-2.天才の証、15歳未満のGM

  1994年、ハンガリーのPeter Lekoが14歳4ヶ月22日でGMとなりました。以降現代のチェスでは、「15歳までにGMになること」が「天才児」の一つの基準となっています。

  Wikipediaソースになりますが、「15歳未満GM」は過去36人出現しています。

en.wikipedia.org  現在の世界王者Magnus Carlsenや、昨年Carlsenに挑戦したFabiano Caruanaらの名前がありますね。2019年1月現在、レーティングによって決定される国際チェス連盟(FIDE)世界ランク上位20人のうち、8人が「15歳未満GM」の達成者です。*3

 

3.グローバル化する才能の発掘、育成

  さて、昨年はPraggnanandhaaが史上2番目の年少GMとなり、各所で大きく報道されました。

dame-chess.hatenablog.com  ところが、ここから2019年1月までの間に、ウズベキスタンのSindarovとインドのGukeshがPraggnanandhaaを上回る若さでGM獲得を決めました。特にGukeshは12歳7ヶ月17日と、Karjakinの記録更新まであと一歩に迫りました。

en.chessbase.com  1988年、Anandがインド初のグランドマスターになって以来30年。この間に、インドは60人のGMを世に送り出しました。うち6人は神童の証「15歳未満GM」であり、6人中5人*4が2019年1月時点でも21歳未満のジュニア・プレーヤーです。

 

  チェスの力を伸ばしたのはインドだけではありません。チェス・オリンピアードで二度優勝した中国。有望なジュニアプレーヤーを多数抱えるイラン。東南アジアの雄、ベトナム。エジプトからも「超一流」の証、FIDEレーティング2700を記録するプレーヤーが出現しました。

 

  レーティングリストの上位をソ連アメリカを中心とした「チェス先進国」のプレーヤーが固めていた1970年代、FIDE公式レーティング制度発足当初からすると、隔世の感があります。

  70年代のイランにチェスの才能を持った少年が生れ落ちても、その才能に気づき、才能を伸ばすことは難しかったでしょう。しかし、現代のイランならば、少年は「未来の世界王者」として注目される若きGMにまで成長できるのです。

en.chessbase.com

  この先もチェスのグローバル化が進展していけば、思いもよらぬ場所からチェス界を豊かにする新たな才能が出現するはずです。

*1:

https://chess24.com/en/read/news/aronian-my-professional-career-started-at-the-age-of-10

*2:RAMCOグループの中心となっているRAMCOセメント社のサイト

*3:

https://ratings.fide.com/top.phtml?list=men Carlsen、Caruana、Giri、Vachier-Lagrave、Wesley So、Yu Yangyi、Radjabov、Karjakinの8人

*4:訂正。院生のNegiさんは20歳過ぎてますね……