2018年のチェス界10大ニュース

1.Candidate TournamentにてFabiano Caruanaが優勝

  ベルリンで、世界王者Carlsenへの挑戦者を決める「Candidate Tournament」が開催されました。

dame-chess.hatenablog.com  激しい戦いの末、アメリカのGM Fabiano Caruanaが優勝し、挑戦権を手に入れました。

dame-chess.hatenablog.com  世界最高レベルのGMたちが、本気で勝ちに行く楽しいゲームが多数みられたこの大会ですが、個人的なベストゲームはAronian - Kramnikです。

   初心者が最初に教えられる「チェス序盤の基本」を真正面から無視する7...Rg8!は観戦する世界のチェスファンを瞠目させる一手でした。一見無茶に見える手を成立させていく構想力から、華麗な終局に至るまで、チェスの魅力が詰まった好ゲームだったと思います。

 

2.フィッシャー・ランダムの「世界選手権」開催

   かのBobby Fischerが提唱した、初期配置をランダムにする変則チェス「フィッシャー・ランダム(チェス960)」ですが、10年以上前にチェス960「世界選手権」の開催が止まって以来、現実の競技チェス界での広がりは停滞していました。

  そんな中、現世界王者Magnus CarlsenとHikaru Nakamuraが「非公式世界選手権」と銘打ったフィッシャー・ランダムのマッチを行いました。

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勝ったのは、Carlsenでした。

www.chess.com  このほか、レイキャビク・オープンでは休養日にEuropean Fischer Random Cup 2018という大会が開かれ、セントルイス・チェスクラブでは元世界王者KasparovやCarlsenら豪華メンバーを集めて早指しのチェス960マッチが実施されました。

  レイキャビク・オープン併催のFischer Random Cupは2019年も開催予定で、同年11月にはCarlsenの参加するフィッシャー・ランダム大会の開催も決まっています。

 2018年は、Fischer Randomが復活の狼煙を上げた年として記憶されるかもしれません。

 

3.全米選手権、下馬評を覆してSamuel Shanklandが優勝

  現在、アメリカのチェス界は世界王者挑戦を決めたFabiano Caruana、早指しに強いHikaru Nakamura、67戦連続無敗を記録したWesley Soが不動のトップ3を形成しており、2018年の全米選手権も3人のうちの誰かが優勝するとみられていました。

  ところが、優勝をさらったのは彼らに次ぐグループという扱いのSamuel Shanklandでした。

new.uschess.org  Shanklandはこの後も活躍を続け、Capablanca MemorialとAmerican Continentalでも優勝を飾り、FIDE公式戦62戦連続無敗という記録を作りました。

  Shanklandは年明け早々「チェスのウィンブルドン」といわれる権威ある大会、Tata Steel Chess Mastersに参加します。2018年、一気にスターダムへ駆け上がったShanklandにとって、2019年はこの地位を維持できるかどうか試される一念になりそうです。

 

4.Praggnanandhaaら、有望ジュニアプレーヤーが続々とGM称号獲得

   Rameshbabu Praggnanandhaaが史上二番目の若さでグランドマスターの称号を獲得し、一般メディアでも報じられるなど大いに注目を集めました。

dame-chess.hatenablog.com  しかし、2018年にGM称号獲得を決めたのは彼だけではありません。

  Praggnanandhaaと同じくインド出身でPraggnanandhaaのライバル的な存在であるNihal Sarin。

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  近年急激に力を付けつつある新興国イランのAlireza Firouzja。強烈な読みの力を生かしたタクティカル・プレーが持ち味です。

en.chessbase.com  若さでPraggnanandhaaの記録を上回ったウズベキスタンのJavokhir Sindarov。

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  このほか、GRENKE Openで優勝し、Isle of Manで惜しくも最後のノームを逃して2018年のGM獲得はならなかったVincent Keymerも注目株です。

  いずれ、彼らがCandidatesで戦うことになるのでしょうね。

 

5.チェス・オリンピアード開催

   2年に一度のチェスの祭典、チェス・オリンピアード。2018年、盛大に開催されました。

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  優勝はオープン、女子とも中国でした。オープンでは2014年トロムソ大会以来二度目、女子は2016年バクー大会に続く連覇で五度目の優勝でした。西欧、アメリカ、ロシア、東欧など伝統国に対し後発の新興国だった中国が、押しも押されぬチェス強豪国として、地位を固めてきたという印象です。

  中国代表ではDing Lirenのプレーが光りましたね。Duda戦は年間ベストゲーム投票でも上位に入る好局でした。

www.youtube.com  前回優勝のアメリカはNakamura、Wesley So、Caruanaの3人を擁して連覇を狙いましたが、タイブレークで惜しくも及びませんでした。

  大会を盛り上げてくれたのは、事前の評価を上回って優勝を争ったポーランド代表でしょうか。アメリカを倒すとは思いませんでした。

www.youtube.comDuda、Wojtaszekの2トップに続く3人がどうか、というチーム編成でしたが、3番ボード以降のプレーヤーが気を吐きました。

なお、日本代表も健闘しました。

 

6.FIDE会長選実施。ロシアの政治家、Arkady Dvorkovichが新会長に

  オリンピアードと同時に実施されたFIDE総会にて投票が実施され、ロシアの政治家Arkady Dvorkovich氏が新たなFIDE会長に就任することになりました。

  同時に立候補して注目を集めたイングランドも著名チェスプレーヤー、GM Nigel Shortは投票の直前に会長選からの撤退を表明。Dvorkovich体制下でFIDE副会長となりました。

 

en.chessbase.com  批判の多かった前会長Kirsan Ilyumzhinovの時代が完全に終わり、新時代を迎えるFIDE。どのような方向に進んでいくのか注目されています。

7.Ju Wenjunが女子世界王者に

  女子最高レーティングを持つ「チェス界最強の女」GM Hou Yifanがオクスフォード大学へ留学、10月から同大学での学生生活が始まりました。そんな中、Hou Yifanを除く女子チェス界の強豪を集めた女子世界選手権がノックアウト方式で開催され、Hou Yifanと同じく中国出身のGM Ju Wenjunが優勝しています。

en.chessbase.comJu WenjunはHou Yifanに次ぐ女子世界ランク2位のプレーヤー。Hou Yifanとはまだ差がありますが、留学でペースを落としている間に差を詰めて欲しいところですね。

 

8.Ding Lirenの連続無敗記録がストップ

  2017年からFIDE公式戦連続無敗を継続していたDing Liren。2018年11月深圳マスターズにおいて、記録は伝説的プレーヤーであるMikhail Talの95戦連続無敗に並びました。

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しかし、同じ大会の最中にDingの記録は100戦で途絶えました。止めたのはフランス第一位のGM Maxime Vachier-Lagraveでした。

en.chessbase.com  無敗記録は準優勝したWorld Cup、世界最高峰の舞台であるCandidates Tournament、中国代表の一番ボードを務めて優勝したオリンピアードでのゲームを含みます。一流のグランドマスターとして、相応しい舞台で戦い続けて築いた記録には大きな価値があると言えるでしょう。

9.Magnus Carlsen、世界王者を防衛

  2018年11月、現世界王者Magnus CarlsenとFabiano Caruanaの間で、「チェス世界王者」の称号かけたタイトルマッチが行われました。

dame-chess.hatenablog.com  こんな事件もあったりしつつ……

dame-chess.hatenablog.com  両者の戦いは12戦連続の引き分けとなりました。最終第12ラウンド、解説を担当していたGMたちが「黒Carlsen優勢」の判断で一致する中ドローオファーを出したCarlsenの判断は、大きな議論を呼びました。次のタイトルマッチでは、フォーマットの変更も検討されるかもしれません。

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  プレーオフでは、Carlsenが三連勝して防衛に成功しました。

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  これまでと同じサイクルが続くのであれば、次のタイトルマッチは2020年。Carlsenは、「世界王者」のまま2010年代を終えることになりそうです。

 

10.AlphaZero、再臨

  2017年12月、ゼロから機械学習したニューラル・ネットワークとMCTSを用いたエンジンで現在最強のエンジンStockfishを打ち破ったと発表し、チェス界に衝撃を与えたDeepmind社のAlphaZero。2018年12月、Deepmind社から再びAlphaZeroについて発表がありました。AlphaZeroについての論文が、サイエンス誌に掲載されたというのです。

  チェス界からの注目点は二つ。

  一つ目は、前回arXivに発表されたペーパーに対しては「Stockfish側に不利な条件で対戦が行われたのではないか」との疑問の声が上がっていました。それを踏まえてなのか、今回はマッチの条件が調整されています。具体的には、Stockfishに対するオープニング・ブックの付与、TCECルールによる指定局面戦、Stockfish側ハードウェアの増強(ハッシュの拡大)などが実施されました。条件を変えても、AlphaZeroはStockfishを上回る力を示しました。

  二つ目は、新たに公開された棋譜の数々です。数量の多さもさることながら、やはりプレー内容にロマンが溢れています……。

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www.youtube.comこのスペックのStockfishを相手に景気よくポーンやピースを投げ捨て、主導権やピースの活動性を生かして戦う。できることなら、私もこんなプレーがしてみたいものです。

 

 

2019年が、チェス界にとって愉快な年でありますよう。