Praggnanandhaa Rameshbabu、史上2番目の若さでグランドマスター称号を獲得!

チェス界期待の新星、インドのPraggnanandhaa RameshbabuがついにグランドマスターGM)称号獲得要件を満たしました!*1。12歳と10ヶ月と13日でのGM獲得は、チェスを扱う媒体やインド国内メディアのみならず、日本語の一般メディアでも話題になったことには驚きましたね……。


1.グランドマスターの価値

  2017年にChess.comに掲載された記事によると、国際チェス連盟(FIDE)の登録競技者で、過去1年以内にFIDE公式戦出場歴のある「アクティブレーヤー」は360,000人超で、グランドマスターは全世界に1.594人います。
  レーティングのインフレ、称号保持者の増加により、「GMの価値が下がった」という意見も出ていますが、それでもGM称号を獲得することはチェス競技者にとって非常に大きな達成とみなされます。
    

2.どうやったらグランドマスターになれるのか

 色々条件があるのですが、一般的には

  1. FIDEのレーティング種別「スタンダード」で一度でも2500を超える
  2. 基準を満たしたFIDE公認大会に出場して規定の成績をクリアし、「GMノーム」を3つ取得する

この2つの条件を満たすことでGMになります。

  「GMノーム」取得には大会で2600を超えるパフォーマンス・レーティング*2を記録する必要があります。この「GMノーム」というのが厄介で、「FIDEレーティング2500」をあっさりクリアしても、「GMノーム3つ」の取得に苦労する若いマスターは少なくありません。

3.PraggnanandhaaがGMになるまで

  Praggnanandhaaは2015年に世界ユース10歳以下の部で優勝すると、2016年には10歳10ヶ月19日でインターナショナル・マスター(IM)の称号を獲得しました。この年齢でのIM獲得は史上最年少記録で、2018年6月現在も破られていません。
  さて、ジュニア選手がGMを目指すにあたっては「GMノーム」を取得するために基準を満たしたレベルの高い水準の大会に参加し続ける必要があります。インド国内の大会に出るだけではGM称号の取得は難しいため、Praggnanandhaaはスポンサーの支援を受けて海外の大会を転戦することになりました。
  年間100を超えるペースで対局をこなしながら世界を飛び回るPraggnanandhaaは、遠征先で名の知れたGMたちとも対戦しています。特に2016年、Chess.com Isle of ManでパラグアイGM Axel Buchmannに18手で快勝したゲームや2017年の同じ大会でイングランドGM David Howellを下したゲームは大いに称賛されました。
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  レーティングも2500を超え、世界の注目は「Karjakinの持つ最年少GM記録を更新できるか」という点に集まりました。最初のGMノーム取得は2017年11月の世界ジュニア選手権で、この時点で2018年3月10日の「タイムリミット」まで4ヶ月を切っていました。その後、アメリカやオーストラリアのGMノーム大会*3にも出場しましたが、結局3月10日までに新たなGMノームを獲得することはできず、記録更新は果たせませんでした。

  記録更新の道は閉ざされても、Praggnanandhaaの挑戦は続きます。今年の4月ギリシャで開かれた大会で2つ目のノームを取得、そして6月にイタリアで開かれたGredine Openで3つ目のノームを揃えてGM獲得の条件を満たしました。GMを目指した遠征の最中にはレーティングを20以上下げるなど崩れた大会もありましたが、Gredine OpenではGMを2人倒し、クロアチアの第一人者GM Ivan Saricと並んで1位タイとなる素晴らしいパフォーマンスを披露しました。

  帰国したPraggnanandhaaは、故郷のチェンナイで熱烈な歓迎を受けています。
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4.Praggnanandhaaの将来

  15歳までにグランドマスター称号を獲得したプレーヤーは過去32人。現世界チャンピオンMagnus Carlsen、一昨年のタイトルマッチでCarlsenに挑戦したSergey Karjakin、今年のタイトルマッチの挑戦者Fabiano Caruana、67ゲーム連続無敗記録を作ったWesley Soなど、錚々たる顔ぶれが並びます。「15歳未満GM」の多くは、一線の競技チェスプレーヤーとして活躍を続けています。
  ただ、GM獲得時に若ければ若いほどその後の競技チェス界で大きな成功が得られるというわけでもありません。「15歳未満GM」の32人の中にはキャリアの中でFIDEレーティング2700*4をクリアしていないプレーヤーもいます。また、Praggnanandhaaの前にインドの最年少GM記録を持っていたParimarjan Negiのように、チェスと距離を置いて学業に力を入れるGMもいます。*5
  Praggnanandhaaが豊かな才能を持っていることは間違いありませんが、ここからどのような競技人生を送っていくのかはまだまだ未知数の部分が多いのです。
  最新の記事の中で、Praggnanandhaaは「スーパーGM*6を目指す」と語っているので、ひとまずは競技チェスの一線で戦い続けてくれるようです。
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  Praggnanandhaaの次の大会はスペインで開催されるTorneo Magistral "Ciudad de León"です。この大会は31回を数える歴史ある大会で、スペインの若手GM Jaime Santos、スペイン第1位のGM Francisco Vallejo Pons、そして世界トップ10のGM Wesley Soが出場します。昨年と同じく4人によるノックアウト方式で行われるので、おそらくVallejo PonsかWesley SoとPraggnanandhaaが準決勝で戦うことになるはずです。格上のプレーヤー相手に天才児がどんな戦いを見せるのか、今から楽しみです。

*1:正式なGM称号の付与はFIDE総会での承認後になります

*2:大会での成績が、どの程度のレーティングに相当するのか示す指標

*3:ノーム取得を目指すプレーヤーのために開かれる招待制大会

*4:世界トップレベル。将棋でいうとA級やB級1組ぐらいでしょうか……

*5:Parimarjan Negiはアメリカに留学、スタンフォード大学で数学を選考。

*6:世界トップレベルのGMを指します。俗称で、正式な称号ではありません。