将棋の賞金 高いか安いか?

  先ごろ、2017年の将棋プロ棋士獲得賞金・対局料ランキングが公開されました。

www.shogi.or.jp

   賞金と対局料を合計したプロ棋士の「賞金ランキング」は近年毎年公表されており、Wikipediaの「将棋界」記事では1993年以降のランキング上位棋士の名前、獲得金額をチェックできます。

  七冠、六冠を保持していた頃の羽生さんが獲得賞金1億6,597万円を記録しています。7,534万円だった渡辺棋王が1位となった2017年を除き、ここ5年ほどの「賞金ランク1位」の獲得金額はおおよそ1億円前後を推移してきたようです。

 

  この「賞金ランキング」発表について、このようなツイートがありました。

   ということで、プロスポーツやゲームの賞金・年俸と将棋界の賞金を比較していきたいと思います。

 

1.身体スポーツ

  将棋のプロ組織は日本国内のみで活動しているので、国内スポーツと比較します。

 

1-1.プロ野球NPB

  国内でのスポーツ興行の代表格、プロ野球日本プロ野球選手会は日本人選手の平均年俸を調査し、公表しています。

  2017年度年俸調査結果を発表しました。

2017年度の日本人選手の平均年俸は3,862万円、球団別で見るとソフトバンクの選手平均年俸は7,013万円だったそうです。

  別ページの表によれば、調査対象になった選手全734人のうち、年俸1億円を超えるプレーヤーは72人(全体の9.8%)、年俸1千万円を超えるプレーヤーは460人(全体の62.6%)です。また、2017年の将棋の賞金ランキング10位のプレーヤーである佐藤康光九段は1,967万円を獲得していますが、プロ野球で2,000万円以上の年俸を得ている選手は272人(全体の37%)でした。

  ベースボール・キングが公開している2017年度の日本人選手推定年俸ランキング*1も見ていきましょう。

baseballking.jp  2017年に将棋の賞金ランク1位となった渡辺棋王の獲得賞金は7,534万円ですから、99位・福山投手(楽天)の上、97位タイに並んだ鶴岡捕手(ソフトバンク)、銀次選手(楽天)の下ですね。

 

1-2.プロゴルフ国内ツアー

  野球は団体スポーツであり、プロ野球選手は所属チームから報酬を受け取っています。将棋と同様に個人スポーツであり、選手が賞金を稼いで主な収入源としているプロスポーツ、ということでゴルフも見ていくことにします。

  ゴルフ・ダイジェスト誌による、2017年国内ツアー賞金ランキングがこちらです。

news.golfdigest.co.jp第1位は宮里優作選手で1億8,000万円オーバー。6位の今平周吾選手までが1億円を超えています。10位は宋永漢選手で、獲得賞金はおよそ6,926万円となっています。昨年の渡辺棋王(7,534万円)は9位H.W.リュー選手と10位宋永漢選手の間に入りますね。

  トップ10圏外を見ていくと、38位までが3000万円オーバー、52位までが2000万円オーバーとなっています。将棋の賞金ランク10位、佐藤康光九段(1,967万円)は52位M・グリフィン選手と53位上井邦裕選手の間になります。

 

2.マインドスポーツ

  将棋はマインドスポーツなので、同じマインドスポーツの世界と比べてみたいと思います。

 

2-1.囲碁

  日本の囲碁界については、賞金ランキング上位10人が公開されています。日本の囲碁界は新聞社が主催する七大タイトル戦が中心となっており、制度もプロ将棋界に近いですね。

www.asahi.com  1位は井山裕太七冠の1億5,981万円。2位の一力遼八段はぐっと下がって約2,523万円となっています。やはり、タイトルを独占していると突出具合が変わってきますね。ということで、2017年の渡辺棋王は井山七冠と一力八段の間に入ります。4位の藤沢女流名人(約2,404万円)、7位の謝依旻女流本因坊(約2,047万円)と女性棋士がランクインしているのも目を引きます。

  10位は六浦七段の約1,699万円。将棋界10位の佐藤康光九段(1,967万円)は謝依旻女流本因坊(約2,047万円)と芝野虎丸七段(1890万円)の間ですね。

 

2-2.チェス

  数億の競技人口を擁するとも言われるグローバルなマインドスポーツ、チェス。その賞金はどんなものでしょうか?

  残念ながら、チェスには統一されたプロ団体というものがなく、まとまった賞金ランキングを作ることは非常に困難です。国際チェス連盟(FIDE)はプレーヤーID保持者数十万人の競技成績を取りまとめ、登録プレーヤー全てのレーティングを算出していますが、賞金についてはノータッチです。賞金や出場料を公表していない大会もあります。

 

  ですが、2012年と2013年にPeter Zhdanov氏*2が「推定」の賞金ランキングを作成し発表しているのでそちらを基に比較してみましょう。2013年版を用います。

en.chessbase.com

   第1位はノルウェーGM Magnus Carlsenで220万米ドル相当。2位はインドのGM Viswanathan Anandで150万米ドル相当です。2013年は世界選手権タイトルマッチが開催されており*3このタイトルマッチに出場した両者はタイトルマッチだけで多額の賞金を得ています。Carlsenはタイトルマッチだけで165万米ドル、Anandは110万米ドルと賞金総額の半分以上をタイトルマッチの賞金が占めています。

  3位のGM Fabiano Caruana(64万米ドル相当)からはタイトルマッチが絡みません。10位のGM Peter Svidlerが約37万5,000米ドル相当、参考に添えられた最強の女性プレーヤーGM Hou Yifanの獲得賞金は26万5,000米ドル相当となっています。

 

  比較対象となる将棋の賞金ランキングも2013年のものを使います。1位は渡辺二冠(当時)の1億255万円。2013年12月31日の為替レート1米ドル=105.203円に従って米ドル換算すると97万4,782米ドルとなります。3位の森内竜王・名人(当時)が5,503万円で52万3,083米ドル。チェスの「推定」賞金ランキングで第10位のプレーヤーを上回っているのはここまでです。2013年の将棋賞金ランク10位は三浦九段の1,633万円(15万5,223米ドル)となっています。

  

  参考までに、2015年に発足したチェスのツアー、Grand Chess Tourの2017年シーズン獲得賞金を紹介しておきます。

  ツアー優勝のGM Magnus Carlsenは24万5,417米ドル(2,670万円相当)を獲得しています。Carlsenはもちろんのこと、ツアーにレギュラー参戦したGMたちは他の大会にも出場して賞金や出場料を得ています。

 

2-3.マジック・ザ・ギャザリングMtG、カードゲーム)

  MtGは賞金が出るプロ大会を開いていることで知られます。プロ・クラブの中でも上位のプレーヤーは「Platinum」とされ、旅費の他に大会出場料を受け取ることもできるそうです。*4

  ウィザーズ社の運営するMtGのウェブサイトでは、プロツアーを通じて各生涯通算獲得賞金ランキングを公開しています。

TOP 200 ALL-TIME MONEY LEADERS | MAGIC: THE GATHERING

  1位のPaulo Vitor Damo da Rosa氏が45万8,535米ドル、2位のJon Finkel氏が43万1,884米ドルなどとなっています。生涯通算でも渡辺棋王の年間獲得賞金額(7,534万円、69万2,374米ドル相当)に及びません。

  ランキングには記録が不完全な部分については合算していない旨の但し書きがついてはいますが、倍額にしても100万米ドルには届きません。

 

2-4.ポーカー

  ポーカー大会の賞金は、スポンサー・主催者が賞金を拠出する形式ではなく、参加者の支払ったエントリー・フィーを賞金の原資(Prize Pool)とし、上位プレーヤーが多くの取り分を得るという形式で成り立っていることが多く、上に挙げた囲碁やチェス、MtGとは毛色が異なります。

  「Poker Hendon Mob」に記録されている大会データから生成された2017年の獲得賞金ランキングがこちらです。

pokerdb.thehendonmob.com  1位のBryn Kenney氏は850万5,898米ドル!!日本円換算で9億円オーバー。圧倒的ですねえ。延々と100万ドル超のプレーヤーが続き、100万ドルを割り込むのは126位です。

 

3.eスポーツ

  最後に当世流行りのeスポーツです。eスポーツの賞金についてはe-Sports Earningsというウェブサイトがよくまとまっているので、そちらの2017年の単年賞金ランキングを利用させてもらいます。

www.esportsearnings.com   1位はドイツのKuroKyさんで、246万6,667米ドル。以下、5位まで似たような金額が続きますが、この5人は「Dota2」というゲームの世界大会「The International 2017」の優勝チーム「Team Liquid」のメンバーです。他の大会にもこのメンバーで参加し、上位に入っています。

  以下、Dota2のプレーヤーが続き、37位のCrownさんが初めて登場する別タイトルのプレーヤーとなります。Crownさんから43位Haruさんまでが「League of Ledgends」(LoL)の世界選手権で優勝したチーム「Samsung Galaxy」のメンバーです。メンバー1人あたりの稼ぎは概ね32万ドルといったところですね。

 

  将棋の2017年賞金ランク1位、渡辺棋王(7,534万円=69万3,881米ドル)と2位の佐藤天彦名人(7,255万円=66万8185米ドル)はDota2 The International 2017第2位のチーム「Newbee」のメンバーと、第3位のチーム「LGD.Forever Young」のメンバーの間に入ります。3位の羽生竜王(5,070万円=46万6,947米ドル)はLoL世界選手権の優勝チームメンバーの獲得額を上回っています。

  賞金ランク10位の佐藤康光九段(1,967万円=18万1,160米ドル)は95位のQuakeプレーヤーClawzさんと96位のDota2プレーヤーRyoさんの間に入ります。

 

まとめ

  さて、身体スポーツ、マインドスポーツ、eスポーツの年俸や賞金と比べて将棋の賞金は高いでしょうか、安いでしょうか?

  指導に対する報酬やスポンサーから得る報酬といったプラスもありますので、「賞金」の額イコール「収入」となるわけではありませんが、個人的な印象を述べるなら「将棋は他のスポーツと比べても、そこそこ“稼げるスポーツ”だった」という感じです。

 

  確かに、身体スポーツの大型興行には及びませんし、「参加費山分け」のポーカーとは動く金額が異なります。しかし(日本の)囲碁の上位と将棋の上位には井山七冠の突出を除けばそう大きな差はありませんし、MtGに対しては圧倒的に優勢です。

  話題のeスポーツに対してもひけをとっていません。Dota2はその高額賞金から「eスポーツで一攫千金」というイメージの形成に貢献していますが、将棋でトップを取ればそのDota2のトッププレーヤーの獲得賞金に匹敵する金額を稼ぎ出すことができます。

 

  少なくとも、プレーに対する金銭的な報酬に関していえば将棋は現状でも十分に「夢のある世界」だと思います。

*1:2016年12月公開。2016年シーズン末の契約更改情報によるものとみられる

*2:妻はチェスのGM Natalia Pogonia

*3:チェスの世界選手権タイトルマッチは毎年実施されるものではなく、現在は概ね2年に一度ペースです

*4:ウィザーズ社のウェブサイトより:
PRO TOUR PLAYERS CLUB GUIDELINES AND PROCEDURES