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チェスの棋譜と二次利用

  最近、囲碁のプロ棋士の方が日本棋院からの要請を受け、自分のブログで行っていたプロ棋戦の解説を自粛するという出来事があったそうです。

  囲碁、将棋の主要プロ棋戦では、新聞社が棋戦のスポンサーになる代わりに排他的な棋譜の利用権を得る「新聞棋戦」という形態が主流であり、棋譜の二次的な利用はスポンサーの棋譜利用権を侵犯する可能性があるという意味で非常にデリケートな問題になります。

  さて、チェスの世界では棋譜の扱いはどうなっているのでしょうか。

 

1.チェスの棋譜は公共の財産

  チェスの棋譜著作権が発生する「著作物」ではなく、スポーツの試合のスコアと同様に事実の記録とみなされます。チェスの棋譜は公共の財産であり、自由な二次的利用が可能です。

  ブログで紹介する、自作の解説動画を作る、創作物のワンシーン*1に利用する、全て自由です。

  ただし、解説には著作権が発生します。

 

2.溢れかえる無料コンテンツ

  棋譜の利用が自由になっていることもあり、ウェブ上にはチェスの無料コンテンツが氾濫しています。

  代表的なものが無料の棋譜データベースで、チェスゲームズやチェスDBなど無料のデータベースサイトでは連日最新の棋譜が登録されていきます。定跡、プレーヤー名を指定しての検索も可能であり、非常に便利です。

  大規模な大会、レベルの高い大会はリアルタイムの棋譜情報を提供し、複数の中継サイトや中継アプリが無料で棋譜中継サービスを提供しています。大会の公式サイトの棋譜中継も無料です。

  またブログやニュースサイト、動画サイトでの棋譜解説も盛んで「マスター」の称号を持つプレーヤーが最新のゲームの解説動画を投稿しています。ちょっとした定跡講座もあって、ネット対局で負けて対策を調べたい時に重宝します。

 

3.有料サービス

  無料コンテンツがある中でお金を取ろうと思うと、やはり無料コンテンツを上回る、お金を払ってもいいと思わせるサービスが必要になります。

  有料の棋譜データベースであるチェスベースはリアルタイムで更新される数百万局のデータベースの他、データベースを使いこなすための高機能GUIやトレーニングツールを提供して差別化を図っています。

  簡単な棋譜解説や講座は無料の動画やブログ、ニュース記事で間に合ってしまうので有料のビデオレッスンや棋書にはもっと深い内容、丁寧な解説が求められてきます。

  また、マスター達は時間あたりお幾ら、という形でプライベート・レッスンを提供しています。大勢に向けた解説や講座ではなく、一人一人に合わせたレッスンという点が価値を生み出すわけですね。

  チェス・ドットコムやチェス24といった多種のサービスを提供する複合サイトは、お金を払うとより上位のサービスが受けられる「プレミアム会員」を設定しています。具体的にはレッスン動画が見られるようになったり、トレーニングのための練習問題が無制限で利用できるようになったりします。

 

4.棋譜=無料の是非

  私自身は大量の無料サービスの恩恵を享受するファンの側にいるので、今の状況は大変嬉しいですね。よく、無料でこんなに楽しめてしまっていいのかと思います。

  ただし、チェスでお金を稼ごうという人々の立場から見ればこれほど厳しい環境もないように見えます。無料コンテンツとの果てしなき競争を続け、レベルの高いサービスを提供し続けることは並大抵の努力でできることではないでしょう。持続可能性という観点から考えると「なんでも無料」という環境を喜んでばかりはいられないかもしれませんね。

*1:例えばアニメ「GJ部」では羽生善治さんの棋譜が使用されていますが、対局者や大会の主催者から許諾を得る必要はありません。