サッカーや卓球だけじゃない!チェスにもブンデスリーガがあるんです!

  サッカーのブンデスリーガといえば、イングランド・プレミアリーグ、スペイン・リーガエスパニョーラと並んでサッカーの世界3大リーグと言われる最高峰の舞台です。卓球にもブンデスリーガが存在し、世界トップレベルの選手たちが腕を競っています。

  ……では、チェスにもブンデスリーガ=ドイツ連邦リーグがあることはご存知でしょうか!

Die stärkste Schach - Liga der Welt | Schachbundesliga

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チェスの「ブンデスリーガ」にも世界からGMが集い、レベルの高い戦いが繰り広げられています。

 

1.沿革

  チェスのブンデスリーガは冷戦下で東西分裂していたドイツのうち西ドイツで発足しました。1974-75年シーズンから79-80年シーズンまでは四地域でクラブ対抗戦を行い、それぞれの地域で1位になったチームが決勝大会を行うという二段階形式で争われました。80-81年シーズンからは通年の全国リーグによって優勝チームを決定する形式に変更されます。

  91-92年シーズンには旧東ドイツ勢が合流。ブンデスリーガは全ドイツの統一リーグとなり、現在に至るまで運営が続いています。

 

2.現在の大会方式

  16チームが1回戦総当たり15ラウンドのリーグ戦を行います。

  各ラウンドでは各チームの登録メンバーから8人ずつが選ばれ、8つのボードに分かれて8対8のチーム戦を行います。各ボードごとに、勝ちに1点、引き分けに0.5ポイントのボードポイントが与えられ、獲得したボードポイントの多いチームが勝ちとなります。

  ラウンドの勝者にはマッチポイントとして2点、4対4で引き分けの場合は1点が与えられます。

  全15ラウンドを消化した時点でマッチポイントの合計が最大のチームが優勝となります。マッチポイントが同数の場合は全ラウンドで獲得したボードポイントの合計によって順位を決定します。

 

  また、4地域に分かれた二部リーグと女子選手のみが参加する女子ブンデスリーガも行われています。

3.主要チーム紹介

OSG Baden-Baden

ブンデスリーガ最強のチーム。登録メンバーにはフランス第1位のプレーヤーであるVachier-Lagraveや元世界王者Anand、Candidatesにも登場したAronianら世界的有力プレーヤーが名を連ねます。8番ボードまでレーティング2700超で固め、引き分けの0.5ポイントすら与えない8-0の完封勝ちを達成してしまうことも。

04-05シーズンから14-15シーズンにかけては10連覇を達成、終盤を迎えた17-18シーズンも首位を走ります。

 

SG Solingen

Baden-Badenに次ぐ強豪。15-16シーズンにBaden- Badenの連覇を止めたのもこのチームで、今シーズンも2位につけています。

インド第2位のプレーヤーHarikrishna、ハンガリー第1位のRapport、オーストリア第1位のMarkus Ruggerが主力として活躍しています。登録メンバーにはGiri、Van Wely、Van Kampen、L'ami、SmeetsとオランダのGMが多いのも特徴ですね。

 

SV 1930 Hochenheim

元世界王者Karpovがメンバーとして登録されており、年に何度かブンデスリーガの試合でこのチームの1番ボードを務めます。普段のラウンドではウクライナのPonomoriov、イングランドのHowell、インドのSasikiranらが上位ボードを務めています。

個人的には個性派のジョージアのJobavaの所属チームという印象が強く、彼の参加するラウンドには注目しています。

 

SV Werder Bremen

総合スポーツクラブ、Werder Bremenのチェス部門。サッカー部門もサッカーのブンデスリーガ1部に在籍中です。

ウクライナのAreschenko、ロシアのDubov、イングランドのMcshane、フランスのFresinetにEdouardが主力です。

地元Bremenではチェス教室や小規模大会も開いており、普及にも取り組んでいます。

 

Schachfreunde Deizisau

今季2部から昇格したチームながら、現在5位につけています。このチームの主力はドイツ国内第4位のMeierと国内第6位のBluebaumで、この2人は殆どのラウンドに参戦しています。元世界選手権タイトルマッチ挑戦者で現在はドイツで若手の指導にあたっているハンガリーのLekoも在籍しており、数試合で1番ボードを務めました。

 

 4.ブンデスリーガを観戦しよう!

  今月29日から3日間、ベルリンのMartim Hotelにてブンデスリーガ17-18シーズン最終3ラウンドが開催されます!一般公開も行われます!

www.schach2018.berlin……とはいっても、ドイツまで行くのは中々難しいので、ネット経由で観戦するしかなさそうです。

  ブンデスリーガはChess24やFollowChessなど各種棋譜中継サイト・アプリで観戦可能です。今シーズンは映像中継はない(ドイツ語の棋譜解説のみ)なので、棋譜で楽しみましょう。

チェス世界選手権タイトルマッチを戦うことになったFabiano Caruanaさんを紹介してみる

  世界王者、Magnus Carlsenへの挑戦者を決めるCandidates 2018はアメリカのGM Fabiano Caruanaの優勝で幕を閉じました。

   Caruanaは今年の11月、ロンドンで行われるタイトルマッチでBobby Fischer以来のアメリカ人世界チャンピオンを目指して戦います。

そんなCaruanaの来歴を紹介していきます。

 

1.ブルックリンの少年

  Caruanaは1992年にアメリカのフロリダ州マイアミに生を受けます。彼がチェスに出会ったのはニューヨークのブルックリンに移り住んでいた5歳の頃でした。Caruanaの父Louisさんによれば、Caruanaはチェスを始めて2か月で父と互角、3ヶ月で完全に追い抜いていたそうです。*15か月後には、初めて大会に出場するまでになっていました。

  早い段階でチェスに対する適性を示したCaruanaは、コーチに師事して本格的にチェス競技へ取り組むようになります。幼少期のCaruanaのコーチの一人は、映画「ボビー・フィッシャーを探して」にも登場する有名コーチ、Bruce Pandolfiniでした。*2

  また、Bobby Fischerを育んだ地でもあるブルックリンでは公園での賭けチェスが盛んに行われていることでも知られます。Caruanaも時には公園で指していたそうです。*3

www.youtube.comボビー・フィッシャーを探して」予告編

youtu.bePandolfiniさんとCaruanaが登場する映像。幼少期の写真も出てくる。

  映画の主人公のように「天才チェス少年」として成長したCaruanaは9歳で全米チェス協会(USCF)の認定するナショナル・マスターの称号を獲得。10歳にしてUSCF公認大会でグランドマスターに対する勝利をおさめます。このほか汎アメリカ・ユース選手権優勝など輝かしい実績を積み上げていたCaruanaは、更に上を目指すため、大きな決断を下します。

 

2.ヨーロッパでの武者修行

  2004年、12歳のCaruanaは家族と共にチェスの本場、ヨーロッパへ移住します。最初はスペインで過ごし、次いで当時のコーチAlexander Cherninが住んでいたハンガリーを拠点としました。

  ハンガリー時代のCaruanaはよく知られている月例大会「First Saturday」の常連となりました。First Saturdayは国際チェス連盟(FIDE)公認の称号、インターナショナル・マスター(IM)やグランドマスターGM)の獲得に必要な「ノーム」を取得できる大会で、IMやGMを目指す各国のプレーヤーが集まって鎬を削ります。日本のIM小島慎也さんもIMを目指していたころにFirst Saturdayに参加し、ノームを取得しています。

  努力が実り、Caruanaは14歳と11か月でGMの獲得に必要な3つ目のGMノームを取得しました。これは当時のアメリカ籍プレーヤーとして最年少の記録でした。

  この頃、Caruanaは、チェス・プレーヤーとしての籍をアメリカ籍からイタリア籍に移しました。*4Caruanaはイタリアのトップ選手として活動し、2011年までにイタリア選手権を4度制することとなります。

www.youtube.com2006年イタリア選手権より。

  Caruanaは後にアメリカに帰国し、籍もアメリカに戻しましたが、帰国後ヨーロッパ時代を振り返ってこう語っています。

I would play 100 games a year or something, for 10 years. And I went from a decent, talented kid level, to pretty much a strong Grandmaster level by the time I came back.

 「天才少年」はGMとなり、世界の頂点を目指して戦っていくのです。

 

3.世界の超一流プレーヤーへ

  Caruanaは2010年に超一流プレーヤーの証、FIDEレーテイング2700を突破しました。この時以来、Caruanaのレーティングが2700を割り込んだことはありません。

  2012年にはTata Steelを皮切りにSparkassenなど「スーパートーナメント」と呼ばれる世界トップレベルの招待制大会を転戦。この頃からCaruanaは「スーパートナメント」の常連となります。

  超一流の仲間入りを果たしたCaruanaがキャリア最高のパフォーマンスを見せたのが2014年のSinquefield Cupです。

youtu.be  この大会でCaruanaは世界チャンピオンになっていたMagnus CarlsenやLevon Aronian、Hikaru Nakamuraら世界のトップ選手を相手に7勝3分と勝ちまくり、3100を超えるトーナメント・パフォーマンス・レーティング*5を記録しました。

  チェス界の巨人たちと肩を並べ、「次の世界チャンピオン」として名前もあがるようになったCaruana。2015年にはチェス国籍もアメリカに戻し、Bobby Fischer以来のアメリカ人世界王者となるべく挑戦していくのです。

 

4.2016 Moscow Candidates

  2014年から2015年のFIDE GPで成績により、Caruanaはついに世界王者への挑戦者を決めるCandidates Tournamentへの出場権を勝ち取ります。

  モスクワで開かれた2016年大会、Caruanaは最終戦で同ポイントでトップを並走するKarjakinとの直接対決に臨みました。同点の場合のタイブレークでKarjakinに劣っていた*6Caruanaは不利な黒番で勝ちを目指して戦う必要に迫られます。

  Caruanaは攻撃的にプレーしますが、Karjakinに見事なコンビネーションを決められ、敗れてしまいます。初の世界選手権タイトルマッチ出場は持ち越しとなります。

www.youtube.comGMによるKarjakin - Caruana解説動画

www.youtube.com大会主催者が公開しているCandidates 2016ドキュメンタリ映像

 5.2018 Berlin Candidates

  2年後、Caruanaは再びCandidates Tournamentへの切符を手に入れます。今回は過去1年のFIDEレーティングの高さによって出場権を勝ち取っており、その期間中高いレベルでのパフォーマンスを維持していたことが伺えます。

  Caruanaは初戦で同じアメリカのWesley Soに勝利すると、更に勝ち星を重ね、勝ち越し3つの単独1位で折り返しを迎えます。

youtu.be第7ラウンド後にアップロードされた観戦者たちの優勝予想。

 しかし、2位Mamedyarovとの直接対決をドローで終え、残り3ラウンドとなった第12ラウンドでCaruanaの行く手に暗雲が立ち込めます。Caruanaは第12ラウンドで敗れ、勝ち越し2つの1位タイに後退。0.5ポイントに5人がひしめく大混戦となりました。Caruanaに勝って追いついてきたのは、奇しくも前回Candidates最終ラウンドでCaruanaの野望を打ち砕いたKarjaknでした。

youtu.be第12ラウンドの解説。Karjakinのエクスチェンジ・サクリファイスが好手だった。

  タイブレークでもKarjakinに劣り、一気に追い込まれたCaruanaでしたが、幸い次のラウンドまでには一日の休養日が設けられていました。Caruanaは休養日を利用し、リフレッシュを図ります。Caruanaは映画館へ向かい、「Shape of Water」を鑑賞しました。およそ2時間、チェスのことを忘れて映画を楽しんだそうです。*7

www.youtube.com  Caruanaは第13ラウンドでAronianを下して単独1位に再浮上します。

  迎えた最終第14ラウンド。0.5ポイント差で追うKarjakinとMamedyarovは共にタイブレークでCaruanaを上回っており、Caruanaは黒番ながら簡単に引き分けで終わらせるわけにはいかない状態*8でした。

   Karjakin、Mamedyarovは中盤で引き分け濃厚の局面となり、ほぼ挑戦権を手中にしたCaruana。しかし、優勢を手にしていたCaruanaは黒番ながら勝ちを目指して攻め続けます。

  そして69手目。Kg3を見た対戦相手のGrischukが投了し、Caruanaの優勝が確定します。Caruanaは1972年Fischer以来のアメリカ人挑戦者*9になったのです。

www.youtube.comGM Daniel Kingによる最終ラウンド解説。

www.youtube.com優勝会見。

 

6.タイトルマッチへ

  Candidatesを終えたCaruanaは喜びもつかの間、Carlsenも参加するスーパー・トナメント、GRENKE Chess Classicに参加するためベルリンからカールスルーエへ移動しました。Caruanaはこの後、全米選手権、Norway Chess、Grand Chess Tourへの参加を予定しており、夏までは忙しい日々が続きそうです。

  さて、CaruanaはCadidates後のインタビューでタイトルマッチに勝つ可能性について語りました。チャンスは50-50だとし、最高のレベルでプレーできればCarlsenを倒すチャンスは手の届くところにある、と述べています。

www.chess.com  タイトルマッチは今年の11月、ロンドンで開催されます。2010年代のチェス界に君臨する王者、Carlsenに対しCaruanaがどんな戦いを見せてくれるのか、大いに注目していきましょう!

*1:CBSニュース He's No Pawn In The Game

*2:映画の中でPandolfiniを演じたのはBen Kingsley。映画の中では峻厳なコーチとして描写されるPandolfini氏ですが、実際はもっと優しいコーチだったそうです。

*3:Q&A with chess grandmaster Fabiano Caruana - New Hampshire Business Review - September 30 2016

*4:Caruanaはアメリカとイタリアの重国籍を持っていたので選択可能だった。

*5:大会での成績がどの程度のレーティングに相当するか示す指標

*6:同点の場合、Karjakinが上の順位になる

*7:Caruana Beats Aronian, Leads Before Candidates' Tournament Final Round - Chess.com

*8:Caruana引き分けてKarjakin或いはMamedyarivが勝てばCaruanaは2位以下になる

*9:世界王者分立時代の1996年にKamskyがKarpovに挑戦しているので、これを含めれば「Kamsky以来」となる。

Shailesh Nerlikar氏と障碍者チェス

1.FIDEレート1465のインド人プレーヤー  

  今月10日、ChessBase Indiaが1人のチェスプレーヤーの死を伝えました。インドの40歳、Shailesh Nerlikar氏です。

www.facebook.com

Nerlikarさんのプレーヤー・カードがこちらです。

ratings.fide.com  レーティングは1465。彼は競技者としてはごく普通のアマチュア・プレーヤーでした。ChessBaseが彼の死を伝えた理由、それは彼が四肢の麻痺、拘縮により自力で長時間立つ、あるいは座っていることができないというハンデキャップを持ったプレーヤーだったからです。

 

  長時間座っていられないため、対局はベッドに横たわったまま行います。駒を持って動かすことも難しいため、指し手は棒を使って駒を動かすという形で伝達されていました。

www.youtube.com  彼はこうしてFIDE公式戦を戦い、レーティングを保持していました。  

2015年にはドイツのドレスデンで開かれた国際的な障碍者チェス大会にも参加しています。その大会でのNerlikarさんの勝局です。

   昨年は健康状態の悪化によってあまりチェス大会に参加できなかったそうですが、FIDE公式サイトによると2017年12月にデリーで開かれた大会に参加しています。これがNerlikarさんにとって最後のFIDE公式戦でした。

ratings.fide.com

  彼の死を悼むとともに、ここまで戦ってきたその闘志を称えたいと思います。

2.公式ルールブックにおける障碍者の扱い

  チェスの公式協議規則である「FIDE laws of Chess」には障碍を持つプレーヤーについて記載があります。

障碍="disability"は次のように定義されています。

disability: 6.2.6 A condition, such as a physical or mental handicap, that results in partial or complete loss of a person's ability to perform certain chess activities.

また、ルールの各項目でも障碍を持つプレーヤーの参加を想定した規則が設けられています。例えば駒を動かす「着手」について。

4.9 If a player is unable to move the pieces, an assistant, who shall be acceptable to the arbiter, may be provided by the player to perform this operation.

 駒を動かすことができないプレーヤーは、審判員によって認められた補助者が提供されるとされています。対局時計や記録の項目にも補助者について記載があります。

視覚障碍に関しては、「D. Rules for play with blind and visually disabled players」として、非常に細かい補助規則が定められています。

触れて駒の配置を認識するための盤と駒についてはこんな具合です。

1.at least 20 by 20 centimeters;
2.the black squares slightly raised;
3.a securing aperture in each square;
4.every piece provided with a peg that fits into the securing aperture;
5.pieces of Staunton design, the black pieces being specially marked.

www.youtube.com  

個人的にはもっと細かく整備できる部分もあると感じますが、こうして一般大会に障碍者が参加することを前提としたルールづくりが行われています。

 

3.一般の大会に出場する障碍者たち

  障碍者プレーヤーたちもごく普通に一プレーヤーとしてチェス大会で戦っています。この点で注目したいのは今年開催されるチェス・オリンピアード。オリンピアードでは、国の代表に混じり、障碍者チェス団体がチームを組んで参加しています。

  2016年にアゼルバイジャンのバクーで開催されたオリンピアードには、

・国際身体障碍者チェス協会(IPCA)

・国際点字チェス協会(IBCA)

・聴覚障碍者チェス委員会(ICCD)

の3チームが参加していました。各チームの戦力はどうなのでしょうか?バクーを戦ったIPCAチームはこんな編成でした。

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Chess resultsより

スタート・リストの順位は150チーム中75位で、日本代表よりも上でした。IBCAは平均2294、ICCDは平均2378といずれも相当の強さです。

  将来、盲目のチェスプレーヤーが世界を制する日も来るかもしれませんね!

 

Candidates 2018(チェス世界選手権挑戦者決定大会)開催中!

  世界王者Magnus Carlsenに挑戦するプレーヤーを決定するCandidates Tournamentが開かれています。
  3月10日に開幕、28日まで続きます。
主催者の公式サイト
FIDE World Chess

概要

大会名 FIDE Candidates Tournament 2018
開催地 ドイツ・ベルリン
賞金 優勝賞金9万5000ユーロ、賞金総額42万ユーロ
方式 2回戦総当たり14ラウンド

参加者リスト

名前 所属連盟 FIDEレート 出場資格
Shakhriyar Mamedyarov アゼルバイジャン 2814 FIDE GP 2017獲得ポイント1位
Vladimir Kramnik ロシア 2800 主催者推薦
Wesley So アメリカ 2799 2017年平均レーティング2位*1
Levon Aronian アルメニア 2797 2017 Chess World Cup 優勝
Fabiano Caruana アメリカ 2784 2017年平均レーティング1位
Ding Liren 中国 2769 2017 Chess World Cup準優勝
Alexander Grischuk ロシア 2767 FIDE GP 2017獲得ポイント2位
Sergey Karjakin ロシア 2763 前回世界選手権タイトルマッチ敗者

公式サイトで無料の棋譜配信が実施される予定です。また、主催のWorld Chess(Agon社)は前回大会で棋譜中継の独占を試みましたが、今大会については5分遅延させるという条件付きで主催者以外が行う棋譜中継を認める旨、発表しています。

注目ポイント

1.三週間ぶっ通しのA級順位戦

  チェス界唯一の「タイトル」である世界王者。Candidatesはその世界王者への挑戦者を決定する大会です。将棋界で言えば最高峰のタイトル「名人」への挑戦者を決めるA級順位戦に相当するレベル、格式を持つ大会といっても過言ではないでしょう。しかも、2回戦総当たりの短期集中開催。大会期間中は毎日がA級順位戦開催日のようなものです。チェス界にとっては一大イベントなのです。

2.出場者

2-1.前回挑戦者Sergey Karjakin
  2016年のタイトルマッチで善戦し、一時は王者Carlsenからリードを奪っていた挑戦者Karjakin。前回敗者枠での出場となりましたが、今回はなんと出場者中レーティング最下位です。しかし、前回2016年大会も下馬評を覆して挑戦権を奪ったのがKarjakin。今回も虎視眈々と番狂わせを狙っていることでしょう。*2

2-2.5度目の正直なるか、Levon Aronian
  Aronianは4大会でCandidates出場を果たしていますが、いずれもタイトルマッチ出場は果たせませんでした。昨年はGRENKE、Norway ChessとCarlsenも参加する招待制大会で2つ優勝すると、World Cupも初制覇。今年はGibraltarで優勝する幸先のいいスタートを切り、好調を維持しているように見受けられます。今回こそ、挑戦者に名乗りを上げたいところです。

2-3.中国初のCandidates出場者、Ding Liren
  近年急速に力を伸ばし、多くのGMを擁するようになった中国。2014年には国別の団体戦チェス・オリンピアードで初優勝を飾り、トップ選手10人の平均レートで示されるFIDEの国別ランキングではロシアに次ぐ第2位とチェス強国としての地位を確固たるものにしてきました。しかし、個人でCandidatesへの出場権を勝ち取ったのは今回のDing Lirenが初めてです。1957年の第1回チェス中国選手権から60年、Dingは中国チェス界にさらなる「初めて」をもたらすことはできるでしょうか。

2-4.ベテランKramnik
  参加者中最年長は43歳の元世界王者、Vladimir Kramnik。主催者推薦での出場とはなりましたが、2月期のFIDEレーティングでは世界ランク3位と堂々たる力を誇示しています。ShirovやLekoら、かつてのライバルたちが徐々に競技のトップレベルから後退していく中、この位置で戦い続けるKramnikの敢闘を期待したいところです。

2-5.記録男Wesley So
 フィリピン出身で、現在は米国籍で戦うGM Wesley So。昨年途中まで67戦連続無敗記録を続け、話題になりました。2017年後半はSinquefield Cupで最下位タイに終わるなどやや調子を落としていた感もありますが、それでも実力者ということに変わりはありません。

2-6.記録を止めた男、Mamedyarov
  Wesley Soの無敗記録を止めたのがアゼルバイジャンGM Mamedyarov。昨年後半に調子を上げ、「若者のゲーム」とも言われるチェスの世界で32歳にしてレーティングの自己最高記録を更新。世界ランク2位まで上り詰めました。愛称の「Shak」から「Shak Attack」と呼ばれることもある攻撃的なプレースタイルでファンを楽しませてくれることと思います。

2-7.長考するGrischuk
  ロシアから参加するAlexandr Grischukは序盤から積極的に時間を使っていくことで知られます。時間切迫に陥ることもしばしばですが、Grischukはこのスタイルで結果を残してきました。Grischukの時間切迫癖について、元世界チャンピオンGM Anandは「僕は残り時間が5分になったらナーバスになり始めるけど、Grischukの時間切迫は残り5秒からだ」と評しています。*3持ち時間が少なくなっても動揺しない強い精神力がGrischukを支えているのでしょう。

2-8.前回の雪辱を期すCaruana
  Caruanaは二度目のCandidatesです。前回大会は挑戦権獲得の可能性を残して最終ラウンドを迎えましたが、勝ちぬくには不利な黒番での勝ちが必要でした。Caruanaは鋭い序盤を選択し、勝ちを目指して積極的にプレーしましたが、敗れて挑戦権は取れませんでした。今回は前回大会の「忘れ物」を取り返したいところです。

3.会場

  会場はベルリン市内のKühlhausという建物。19世紀末に冷凍庫として建設され、現在はイベント会場として利用されています。
対局場は各ボードごとに区切りをつくる独特の構造になっています。


観客は二階から覗き込むように観戦します。

*1:FIDE GPあるいはChess World Cupに参加し、他の要件で出場資格を獲得していないプレーヤーの中での順位です。参加資格の優先順位は1.前回タイトルマッチの敗者、2.Chess World Cup上位2名、3.FIDE GP上位2名、4.平均レーティング、5.主催者推薦となっています。

*2:というか、2700後半のレートを持っていればこの面子相手に良い戦いをしても不思議ではないですし……

*3:2009年のインタビュー Anand: Every year I keep my fingers crossed | ChessBase

将棋の賞金 高いか安いか?

  先ごろ、2017年の将棋プロ棋士獲得賞金・対局料ランキングが公開されました。

www.shogi.or.jp

   賞金と対局料を合計したプロ棋士の「賞金ランキング」は近年毎年公表されており、Wikipediaの「将棋界」記事では1993年以降のランキング上位棋士の名前、獲得金額をチェックできます。

  七冠、六冠を保持していた頃の羽生さんが獲得賞金1億6,597万円を記録しています。7,534万円だった渡辺棋王が1位となった2017年を除き、ここ5年ほどの「賞金ランク1位」の獲得金額はおおよそ1億円前後を推移してきたようです。

 

  この「賞金ランキング」発表について、このようなツイートがありました。

   ということで、プロスポーツやゲームの賞金・年俸と将棋界の賞金を比較していきたいと思います。

 

1.身体スポーツ

  将棋のプロ組織は日本国内のみで活動しているので、国内スポーツと比較します。

 

1-1.プロ野球NPB

  国内でのスポーツ興行の代表格、プロ野球日本プロ野球選手会は日本人選手の平均年俸を調査し、公表しています。

  2017年度年俸調査結果を発表しました。

2017年度の日本人選手の平均年俸は3,862万円、球団別で見るとソフトバンクの選手平均年俸は7,013万円だったそうです。

  別ページの表によれば、調査対象になった選手全734人のうち、年俸1億円を超えるプレーヤーは72人(全体の9.8%)、年俸1千万円を超えるプレーヤーは460人(全体の62.6%)です。また、2017年の将棋の賞金ランキング10位のプレーヤーである佐藤康光九段は1,967万円を獲得していますが、プロ野球で2,000万円以上の年俸を得ている選手は272人(全体の37%)でした。

  ベースボール・キングが公開している2017年度の日本人選手推定年俸ランキング*1も見ていきましょう。

baseballking.jp  2017年に将棋の賞金ランク1位となった渡辺棋王の獲得賞金は7,534万円ですから、99位・福山投手(楽天)の上、97位タイに並んだ鶴岡捕手(ソフトバンク)、銀次選手(楽天)の下ですね。

 

1-2.プロゴルフ国内ツアー

  野球は団体スポーツであり、プロ野球選手は所属チームから報酬を受け取っています。将棋と同様に個人スポーツであり、選手が賞金を稼いで主な収入源としているプロスポーツ、ということでゴルフも見ていくことにします。

  ゴルフ・ダイジェスト誌による、2017年国内ツアー賞金ランキングがこちらです。

news.golfdigest.co.jp第1位は宮里優作選手で1億8,000万円オーバー。6位の今平周吾選手までが1億円を超えています。10位は宋永漢選手で、獲得賞金はおよそ6,926万円となっています。昨年の渡辺棋王(7,534万円)は9位H.W.リュー選手と10位宋永漢選手の間に入りますね。

  トップ10圏外を見ていくと、38位までが3000万円オーバー、52位までが2000万円オーバーとなっています。将棋の賞金ランク10位、佐藤康光九段(1,967万円)は52位M・グリフィン選手と53位上井邦裕選手の間になります。

 

2.マインドスポーツ

  将棋はマインドスポーツなので、同じマインドスポーツの世界と比べてみたいと思います。

 

2-1.囲碁

  日本の囲碁界については、賞金ランキング上位10人が公開されています。日本の囲碁界は新聞社が主催する七大タイトル戦が中心となっており、制度もプロ将棋界に近いですね。

www.asahi.com  1位は井山裕太七冠の1億5,981万円。2位の一力遼八段はぐっと下がって約2,523万円となっています。やはり、タイトルを独占していると突出具合が変わってきますね。ということで、2017年の渡辺棋王は井山七冠と一力八段の間に入ります。4位の藤沢女流名人(約2,404万円)、7位の謝依旻女流本因坊(約2,047万円)と女性棋士がランクインしているのも目を引きます。

  10位は六浦七段の約1,699万円。将棋界10位の佐藤康光九段(1,967万円)は謝依旻女流本因坊(約2,047万円)と芝野虎丸七段(1890万円)の間ですね。

 

2-2.チェス

  数億の競技人口を擁するとも言われるグローバルなマインドスポーツ、チェス。その賞金はどんなものでしょうか?

  残念ながら、チェスには統一されたプロ団体というものがなく、まとまった賞金ランキングを作ることは非常に困難です。国際チェス連盟(FIDE)はプレーヤーID保持者数十万人の競技成績を取りまとめ、登録プレーヤー全てのレーティングを算出していますが、賞金についてはノータッチです。賞金や出場料を公表していない大会もあります。

 

  ですが、2012年と2013年にPeter Zhdanov氏*2が「推定」の賞金ランキングを作成し発表しているのでそちらを基に比較してみましょう。2013年版を用います。

en.chessbase.com

   第1位はノルウェーGM Magnus Carlsenで220万米ドル相当。2位はインドのGM Viswanathan Anandで150万米ドル相当です。2013年は世界選手権タイトルマッチが開催されており*3このタイトルマッチに出場した両者はタイトルマッチだけで多額の賞金を得ています。Carlsenはタイトルマッチだけで165万米ドル、Anandは110万米ドルと賞金総額の半分以上をタイトルマッチの賞金が占めています。

  3位のGM Fabiano Caruana(64万米ドル相当)からはタイトルマッチが絡みません。10位のGM Peter Svidlerが約37万5,000米ドル相当、参考に添えられた最強の女性プレーヤーGM Hou Yifanの獲得賞金は26万5,000米ドル相当となっています。

 

  比較対象となる将棋の賞金ランキングも2013年のものを使います。1位は渡辺二冠(当時)の1億255万円。2013年12月31日の為替レート1米ドル=105.203円に従って米ドル換算すると97万4,782米ドルとなります。3位の森内竜王・名人(当時)が5,503万円で52万3,083米ドル。チェスの「推定」賞金ランキングで第10位のプレーヤーを上回っているのはここまでです。2013年の将棋賞金ランク10位は三浦九段の1,633万円(15万5,223米ドル)となっています。

  

  参考までに、2015年に発足したチェスのツアー、Grand Chess Tourの2017年シーズン獲得賞金を紹介しておきます。

  ツアー優勝のGM Magnus Carlsenは24万5,417米ドル(2,670万円相当)を獲得しています。Carlsenはもちろんのこと、ツアーにレギュラー参戦したGMたちは他の大会にも出場して賞金や出場料を得ています。

 

2-3.マジック・ザ・ギャザリングMtG、カードゲーム)

  MtGは賞金が出るプロ大会を開いていることで知られます。プロ・クラブの中でも上位のプレーヤーは「Platinum」とされ、旅費の他に大会出場料を受け取ることもできるそうです。*4

  ウィザーズ社の運営するMtGのウェブサイトでは、プロツアーを通じて各生涯通算獲得賞金ランキングを公開しています。

TOP 200 ALL-TIME MONEY LEADERS | MAGIC: THE GATHERING

  1位のPaulo Vitor Damo da Rosa氏が45万8,535米ドル、2位のJon Finkel氏が43万1,884米ドルなどとなっています。生涯通算でも渡辺棋王の年間獲得賞金額(7,534万円、69万2,374米ドル相当)に及びません。

  ランキングには記録が不完全な部分については合算していない旨の但し書きがついてはいますが、倍額にしても100万米ドルには届きません。

 

2-4.ポーカー

  ポーカー大会の賞金は、スポンサー・主催者が賞金を拠出する形式ではなく、参加者の支払ったエントリー・フィーを賞金の原資(Prize Pool)とし、上位プレーヤーが多くの取り分を得るという形式で成り立っていることが多く、上に挙げた囲碁やチェス、MtGとは毛色が異なります。

  「Poker Hendon Mob」に記録されている大会データから生成された2017年の獲得賞金ランキングがこちらです。

pokerdb.thehendonmob.com  1位のBryn Kenney氏は850万5,898米ドル!!日本円換算で9億円オーバー。圧倒的ですねえ。延々と100万ドル超のプレーヤーが続き、100万ドルを割り込むのは126位です。

 

3.eスポーツ

  最後に当世流行りのeスポーツです。eスポーツの賞金についてはe-Sports Earningsというウェブサイトがよくまとまっているので、そちらの2017年の単年賞金ランキングを利用させてもらいます。

www.esportsearnings.com   1位はドイツのKuroKyさんで、246万6,667米ドル。以下、5位まで似たような金額が続きますが、この5人は「Dota2」というゲームの世界大会「The International 2017」の優勝チーム「Team Liquid」のメンバーです。他の大会にもこのメンバーで参加し、上位に入っています。

  以下、Dota2のプレーヤーが続き、37位のCrownさんが初めて登場する別タイトルのプレーヤーとなります。Crownさんから43位Haruさんまでが「League of Ledgends」(LoL)の世界選手権で優勝したチーム「Samsung Galaxy」のメンバーです。メンバー1人あたりの稼ぎは概ね32万ドルといったところですね。

 

  将棋の2017年賞金ランク1位、渡辺棋王(7,534万円=69万3,881米ドル)と2位の佐藤天彦名人(7,255万円=66万8185米ドル)はDota2 The International 2017第2位のチーム「Newbee」のメンバーと、第3位のチーム「LGD.Forever Young」のメンバーの間に入ります。3位の羽生竜王(5,070万円=46万6,947米ドル)はLoL世界選手権の優勝チームメンバーの獲得額を上回っています。

  賞金ランク10位の佐藤康光九段(1,967万円=18万1,160米ドル)は95位のQuakeプレーヤーClawzさんと96位のDota2プレーヤーRyoさんの間に入ります。

 

まとめ

  さて、身体スポーツ、マインドスポーツ、eスポーツの年俸や賞金と比べて将棋の賞金は高いでしょうか、安いでしょうか?

  指導に対する報酬やスポンサーから得る報酬といったプラスもありますので、「賞金」の額イコール「収入」となるわけではありませんが、個人的な印象を述べるなら「将棋は他のスポーツと比べても、そこそこ“稼げるスポーツ”だった」という感じです。

 

  確かに、身体スポーツの大型興行には及びませんし、「参加費山分け」のポーカーとは動く金額が異なります。しかし(日本の)囲碁の上位と将棋の上位には井山七冠の突出を除けばそう大きな差はありませんし、MtGに対しては圧倒的に優勢です。

  話題のeスポーツに対してもひけをとっていません。Dota2はその高額賞金から「eスポーツで一攫千金」というイメージの形成に貢献していますが、将棋でトップを取ればそのDota2のトッププレーヤーの獲得賞金に匹敵する金額を稼ぎ出すことができます。

 

  少なくとも、プレーに対する金銭的な報酬に関していえば将棋は現状でも十分に「夢のある世界」だと思います。

*1:2016年12月公開。2016年シーズン末の契約更改情報によるものとみられる

*2:妻はチェスのGM Natalia Pogonia

*3:チェスの世界選手権タイトルマッチは毎年実施されるものではなく、現在は概ね2年に一度ペースです

*4:ウィザーズ社のウェブサイトより:
PRO TOUR PLAYERS CLUB GUIDELINES AND PROCEDURES

Fischer Random 2018開催!

 変則ルール「フィッシャー・ランダム」を適用した棋戦が開催されます。
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公式サイト
Home - Fischer Random 2018
公式サイトにて、中継映像が配信される予定です。

概要

大会名 Fischer Random 2018 Magnus Carlsen - Hikaru Nakamura
開催地 ノルウェー・Høvikodden
賞金 総額150万ノルウェー・クローネ、勝者90万ノルウェー・クローネ
方式 CarlsenとNakamuraによる1対1のマッチ。ラピッド8ゲーム、ブリッツ8ゲームを行い、決着がつかない場合アルマゲドンを行う

参加者リスト

名前 所属連盟 FIDEレート 備考
Magnus Carlsen ノルウェー 2843 世界ランク1位、現世界王者
Hikaru Nakamura アメリカ 2781  

注目ポイント

1.フィッシャー・ランダム(チェス960)というルール

  フィッシャー・ランダムとは、元チェス世界王者Bobby Fischerが考案したチェスの変則ルールです。
通常、チェスの駒の初期配置はこうですよね。
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ところが、フィッシャー・ランダムではポーンを除く一段目の駒の配置をランダムに入れ替えます。
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こんな配置もあります。
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960通りの配置があるため、「チェス960」とも呼ばれます。

  なぜこんなことをするのか、というと標準的なチェスで比重を増している事前研究をなくす(少なくとも、その比重を軽くする)ためです。
  現在の駒の動きと初期配置が確定してから数百年。チェスプレーヤーたちは営々と序盤定跡を研究し続けてきました。世界の頂点を争うグランドマスターたちはチームを組織し、高度な研究を行っています。近年では世界チャンピオンより強いコンピュータ、数百万局を収録したデータベースなど、電子的な手段を利用した強力な研究も行われています。結果的に、事前研究の重要性は増すばかり。トップレベルでは事前に準備してきた引き分けになるラインを再現して終局するようなゲームも増えてきています。トップ選手たちは膨大な序盤研究によって疲弊しますし、見ている側も研究手順を並べなおす様子を眺めているだけでは楽しめません。
  この状況を打破すべく、一旦初期配置をリセットし、初手から盤の前で指し手を考えさせるのがこのルールのねらいです。

2.フィッシャー・ランダムは興隆するのか

  フィッシャー・ランダムは一時大きく注目され、2007年から2009年にかけてはチェス界のトップ選手が参加して、フィッシャー・ランダムの「世界選手権」を称する大会も開かれました。しかし、近年はトップ選手が参加するOTBのフィッシャー・ランダム大会が開かれることはなくなりました。
  今回、Magnus CarlsenとHikaru Nakamuraという世界トップクラスのプレーヤーが大々的にフィッシャー・ランダムの対局を行うことで、フィッシャー・ランダムは勢いを取り戻し、レベルの高いOTB大会が開かれるようになるかもしれません。

3.栄冠はどちらの手に?

  単純にレーティングだけで見ると、FIDEのスタンダード、ラピッド、ブリッツ全てで上回るCarlsenが優位に思えます。また、Carlsenは力戦形も好んで指します。先日のTata Steelで指されたSvidler戦などを見ても、「定跡無用の力勝負」はCarlsenにとって歓迎すべきフィールドと言えそうです。
  一方のNakamura。Chess.com主催の早指しオンライン棋戦でCarlsenと対戦し、総合成績では負け越したのですが、その中のフィッシャー・ランダムで行われたゲームではCarlsenに勝ち越しています。また、前述のフィッシャー・ランダム「世界選手権」の2009年大会で優勝したはNakamuraです。Carlsenよりレーティングが低いとはいえ、Nakamuraもラピッド、ブリッツでは世界3位のプレーヤー。過去のフィッシャー・ランダムでの成績も考慮すれば、Nakamuraにも十分勝機はあるでしょう。

4.「非公式」世界選手権

  今大会はフィッシャー・ランダム方式の非公式な世界選手権タイトルマッチとして開催されます。

5.コメンテーター

  セントルイスでの大会やChessbrahの配信でお馴染みのGM Yasser Seirawan、そしてChess24を軸に活動するIM Anna Rudolfのコンビが解説を行います。

【チェス警察】Fate/Extra Last Encore 第1話のチェス描写

  キャラクターの「頭の良さ」をお洒落に演出する小道具として、アニメ、漫画の中でチェスが用いられる例は少なくありません。2018年1月に放送開始となったアニメ「Fate/Extra Last Encore」でもチェスが使われていたので、プレーヤー目線でチェックしていきたいと思います。

1.盤の置き方

  チェス警察が真っ先に注目するのは、盤の置き方です。チェス盤は市松模様になっていますね。

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 実は、正式なゲームでは白のプレーヤーから見て左下の隅が黒いマス(色の濃いほうのマス)になるようにチェス盤を置くことが決められています。

 チェス盤が登場するイラストなどを見ていると、この盤の置き方が逆になってしまっているものも多くみられます。この辺りはプレーヤーでないと気が付きにくい部分かもしれません。

 Fate/Extra Last Encoreの第1話はどうだったのかというと……

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残念ながら、盤の置き方が間違っています……。

細かい部分ですが、次の機会があれば正しい置き方を採用してもらえると嬉しいですね。

 

2.ゲーム内容

 チェスが登場したのは「チェス部部長と『レオナルド』と呼ばれるキャラクターが観客の前でチェスの対局を行う」という場面でした。

 

黒を持つレオナルドがRf3と指したところから。

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前後の情報も合わせて盤面を再現するとこんな具合です。

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黒勝勢ですね!白を持つ部長は、Qxf3としました。

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次にg4のポーンでクイーンを取られてしまいますが、Bxg3#のチェックメイトを回避するためには仕方のない犠牲です。

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gxf3以下文句なく黒勝ち……のはずだったのですが……。

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 Bxg3+?? なぜクイーンを取らないんだ……。演出の都合で手を飛ばしたのかもしれない、とも考えましたが、レオナルドがBxg3+を着手するカットでの周囲の駒の配置を見る限り、唯一最善の手であるgxf3は指されていないんですよね。

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部長はQxg3とビショップを取ります。黒はポーン一つを取りましたが、ルークとビショップを取られて大損です。詰み筋も消えてしまいました。

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この後黒のレオナルドが駒を取り、チェックメイトを宣言します。

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このカットから見るに、レオナルドの最後の手はQxg3+です。

盤面を再現するとこうなります。

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チェックメイトではないですね……。白のKxg3でゲーム続行です。形勢は白優勢です。

 

3.大盤の向き

 間違いとまでは言えない点なのですが、会場に設置されていた大盤の向きも少し気になりました。

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さきほど局面再現に使った盤を劇中の大盤と同じ向きにセットすると、こうなります。

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通常、解説用の壁掛け盤や大盤は白を下向きにして置かれます。

 

部長とレオナルドの着座している向きに合わせ、演出として敢えてこの向きにしているのかもしれません。

 

4.まとめ

 細かい点ですが、盤の置き方の間違いは少し気を付ければ回避できるので、Fate/Extra Last Encoreのような規模の大きい商業作品であれば頑張って避けてほしかったところです。

 ゲーム内容については、今回のような使用法なら過去の名局の棋譜をそのまま利用する形でよかったように思います。演出、脚本の都合で駒に特別な動きをさせる必要がある*2場合は求める展開に沿った棋譜を選んだり、棋譜を創作したりする必要も出てきます。しかし、キャラクターがカッコよく勝つシーンが欲しいだけであれば有名なゲームを適当に選んで再現するだけで問題ありません。

  実際、アニメ「GJ部」ではチェスプレーヤーとしても知られる将棋の羽生竜王のゲームをそのまま再現しています。

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ニコニコ動画で配信されているGJ部1話からキャプチャした当該局面図



  ……とここまで色々書いてきましたが、少々粗があっても作品自体が面白ければいいんです!チェス勢としては、チェスをカッコ良く使ってくれればそれだけで嬉しいものなんです!

要するに……

 コードギアスはいいぞ。

 

*1:白のキングが黒くなっているのは単なる作画ミスだと思われる

*2:クイーンを犠牲にする、キングが前進するなど